骨格から見るベタと金魚の印象論

金魚とベタは双方ともに,ペットショップとあればどこでもその姿を見ることができる観賞魚であり,品種改良の際のコンセプトも「色とりどりで」「ヒレが美しく伸長する」と似通う点が多々あります.しかしながら両者そのものは「似ている」とはいいがたく,朱文金やコメットなど体型が似通った品種においてもどうにも雰囲気が違います.こうした差は「骨格」を見てみるとその実態をつかみやすいのかもしれません.胴体の外見は同じ流線形でも,骨格においてはこの両者は大きな違いが見受けられます.
「動作の基点」としてみる骨格
動物の動きの構成要素がどうなっているか考えてみましょう.

これらは基本的に筋肉の曲げ伸ばしによって実現されますが,その両端は骨格とつながっていますし,骨格に関節があって初めて筋肉は曲げ伸ばしが可能です.

呼吸器など内臓のためのスペースになるほか,腕や腹部を動かす筋肉の基点となる.
腕や脚を動かして移動しているから当たり前に感じるのはそうですが,逆に言うとあばら骨のように柔らかい内臓を内包する骨格は,堅牢な構造とするためにあえて曲げ伸ばしの余地がない組み立てになっています.
以上の内容は人間におけるものでしたが,行動を見る限り魚においてもある程度適用されるようで,胴体をあばら骨が占める割合(観察上では終端の目安になる尻びれの開始位置)がそれぞれ違う2種は,それぞれの骨格の特徴をとらえた泳ぎ方をします.
ベタ
ベタとは

ベタとはタイ原産の肉食性の観賞魚で,主にメコン川流域の湿地帯や水田,小さな沼など水流のない水域に生息していた原種を品種改良して作出されました.こうした生育環境は生態にも大きく反映されております.
まず住みよい水質は落ち葉由来の有機酸や各種成分を含む薄茶色を帯びた弱酸性のもので,これを再現するため,タイリーフという落ち葉やタイリーフエキスという水質調整剤の販売があります.水の流れがないため落ち葉が積もる一方の環境に適応した結果と言えます.
その他,水流がなく空気が巻き込まれることがないため,水中に酸素が溶け込む機会が少ないことから,ベタには空気中の酸素を取り込むための呼吸補助器官として「ラビリンス」というものがあります.
骨格

ベタのライフスタイルは基本的に,餌となる虫を捕獲したり,居ついた水たまりに固着する生活となりますから,他の魚がやってくると縄張りを巡った争いとなります.
このため相手の動きに合わせて様子を窺ったり,一度の推進で一気に間合いを詰める必要が出てきますから,体つきには柔軟性や瞬発力が求められます.ここから,大きく稼働させづらい内臓のパート(画像中で赤で示された部位)が狭くなり,尾びれを動かす推進力になるパート(青で示された部位)が広く持たれた体つきがより適応的と言えます.
こうした骨格を解剖せずに見る時,尻ビレの位置,長さを見るのがよいかと思われます.消化器官の終端となる肛門が尻ビレの前につき,この肛門が他の内臓含めたスペースの区切りである場合が多いためです(フンが垂れていれば類推はできるが,小魚の体に空いたさらに小さな穴である以上,肛門そのものを見つけようというのは骨が折れる).
上記動画はベタが新しく入った流木に対して「フレアリング」,つまり威嚇を行っている様子ですが,流木を凝視して様子を伺いつつ,長い胴体の筋肉を思う存分使って尾びれをゆらゆらと動かしながら周囲を取り囲むようにして泳ぐ様子が見受けられます.こうした動きは上述した骨格構造によって実現される動きと言えます.
イラストに起こすポイント

ベタをイラストに起こす際はこの独特な泳ぎ方,それによるヒレの揺らめきにクローズアップするのがより写実性と作品性を高められるアプローチと言えます(「ベタを描いている」と分かってもらいやすく,「面白い絵だなぁ」と思ってもらいやすい).
単独で遊泳させる際はヒレや胴体のしなやかさが目立つように,2匹を向かい合わせる際は互いをにらみ合い自らを奮い立たせるような姿勢をポージングさせる,フレアリングの特徴としてエラ蓋やヒレを広げたりさせるなど,感情や動作に注目した絵作りの余地が幅広いのはベタのほうと言えます.
金魚

金魚とは
金魚はフナから品種改良された観賞魚で,基本的にギベリオブナ(Carassius gibelio)の赤変個体からの派生ですが,ギンブナの血筋が含まれるとされる朱文金や,魚取沼の在来種と交雑したテツギョなど例外もあります.
植物プランクトンや水草が主なエサではありますが,たんぱく源として赤虫なども嗜好する雑食性で,「和風の観賞魚ということで取り合わせがいいから,とメダカと同じ水槽に入れたらメダカを食べてしまった」というほどの貪欲さの持ち主です.これは金魚などコイ科の魚には胃がなく,満腹中枢が働かないため「腹がすいた」「満足である」という感覚がないからとされています.
ベタとの違いにおいては他に原則として混泳が可能である(泳ぎが上手い下手で餌の取り合い・オスメスの小競り合いに悪影響はあれど,縄張り争いとしての殺し合いはまず考えられない)点があげられます.
こうした生態は骨格にも反映されています.本来の魚の形をとどめている「長物」と胴体が寸詰まりで丸まっている「丸物」ではシルエットや泳ぎの影響で印象こそ大きく違って見えますが,考え方としては似通っており,それぞれの差は程度問題の範囲となっております.
骨格
基本的に植物性の食性である金魚の生態において求められるのは,「エサを求めて継続的に泳ぐ能力」と「常に餌が入る内臓の確保スペース」となりますから,しっぽを一気に振って急加速するための筋肉のスペースもほどほどにいるとして,ベタより内臓にスペースを欲するということになります.長物と丸物の違いとしてはこの「泳ぐ能力」の欠如具合が主な内容となります.
長物

長物は元の魚の体型が維持されており,比較的長い骨格のため大きく育ちやすい体型と素早い動きが特徴です.内臓の入るスペースがベタと比べて大きいながらも,しっぽを振るための筋肉が収まるセクションもあり,これが素早い動きを実現しています.外見から見て尻ビレが比較的後ろについていて短いことからも,ベタとの骨格の違いがみて取れます.
上記動画はマイナー品種ではありますが,ジャンボ獅子頭(オランダ獅子頭×和金)の血統であるジャンボ東錦で,長物金魚の特徴がしっかり見受けられます.尾びれこそ開き尾で通常の魚とは別物ですが,しっぽの筋肉や骨格は長物のためしっかりとした泳ぎが見受けられます.また,ベタのように体を曲げた姿勢を維持してゆっくりと様子をうかがうような動きというより,常にせわしなく動いてかく乱するような印象があります.
丸物

品種改良を重ね,胴体が寸詰まりになって丸っこい体型のもの,具体的には琉金やらんちゅうなどの体型を概して「丸物」と呼びます.この丸物は腹の部分が大きく出っ張っているほか,しっぽの骨格が大きく歪曲していることがこの丸い体型につながっています.

しっぽの骨格は背中側が円弧を描くように曲がり,このため尻ビレ自体やそれを支える筋肉・骨格のセクションが押し縮められ,横見して尾びれに隠れるような構造となっています.
上記動画はオランダ獅子頭で,同じ肉瘤金魚でもジャンボ東錦とは全く印象が違うことが分かるかと思います.しっぽを動かすセクションが品種改良の影響でほぼ失われておりますから,必然的にゆっくりとした動きで,鑑賞する側としては細かいところまで見えて楽しめます.
イラストに起こすポイント

金魚に体を曲げてポージングさせるにしても,ヒレを動かして推進する箇所が短いため動きの幅がどうしても狭くなるということは,これまでの説明からお分かりいただけると思います.尾びれだけでなく胸ビレ,腹びれなどの向きで差をつけることができるとはいえ,胴体の動きで差をつけることが難しい以上,ぱっと見で印象のある絵作りの役に立つとは考えにくいです.

動きでどうこうするのが難しいわけですから,絵柄や画角などで個性を出していくというのが金魚を描いていくうえで効果的かと思われます.
