ベタ(ベールテール)のイラスト作品「近影」のメイキングを作者より解説
要約:Dubai World Trade Centreにて2025/4/17~20に開催されたアートフェア「World Art Dubai 2025」にて展示するイラスト作品「近影」を,デジタルイラスト作成ソフト「CLIP STUDIO PAINT」を用いて作成します.
被写体となったベタの飼育を経て得た視点,それをイラストやその他細部に落とし込むためのアプローチに触れます.
事前情報
「World Art Dubai 2025」(以下WAD2025)への出展というお話をいただいた2024年6月,筆者はホームセンターで働きつつ,職場で陳列する商品の知識を確保するためにベタ(ベールテール)の飼育を行っておりました.
こうした店舗でベタを陳列する際,効率的なスペース確保と縄張り争い抑止の観点から,1Lあるかどうかの小さな水槽に1匹ずつ入れ,エアレーション含めた水槽用設備を一切入れずに飼育します(同じ親から生まれたメスを複数匹,同じ水槽で管理するといった特例もあることにはあります).
こうした様子がグラスの中で踊る一滴の生きた絵の具のような視覚効果があり,この魚の魅力を生かすショウケースとして機能しているのですが,この魚の魅力はここでとどまりません.
その体格と柔らかくなびく鰭から繰り出される動きとかわいらしい生態の数々,「人になつく」とまで言われる豊富なリアクションを長く楽しもうと思うと,飼育環境は陳列されていた時のそれから大きく変化していきます.
寝床として活用させるためのマジックリーフ,泳ぎの途中で寄りかかって休憩させる水草からより住みよい水質に整えるためのタイリーフエキス…いつしか水は茶色みがかり,水草に隠れることも増え,あの日注文に至った美しい体色は餌やりの時拝めるかどうか…しかしそれは体色よりずっと愛らしいものを知っているから…
といった趣旨を,持てる力すべてを注ぎ込み海外にて知らしめる,というコンセプトのもと,このイラストの制作が始まりました.
制作
「CLIP STUDIO PAINT」での工程
デジタルイラスト制作ソフト「CLIP STUDIO PAINT」では,印刷するキャンバスのサイズに合わせたデジタルイラストを作成していきます.
構図・ラフ

WAD2025に出展できる最大イラストサイズがS10号サイズ(530mm×530㎜)のため,十分な解像度で印刷できるようキャンバスサイズを5300×5300pxとします.
デジタルイラストとして作成し,キャンバスに印刷する関係上,粗い解像度では詳細が見苦しくなる可能性もあるほか,自分の作風が線画を細かく積み重ねるもののため,近くまで寄ってよくよく観察してもらう鑑賞様式に仕向けたいという思いもありました.

詳細を細かく描くイラストを作成するとき,全体のバランスを損ねないための指標にできるため,ラフを描いておくと作業がより楽で効果的になります.
ベタは流木や落ち葉など植物性の堆積物による弱酸性の環境を好むため,ベタの上部には曲がりくねってせりあがった流木を配置しておきましょう.
下部には水草による自然な緑を足してベタの鮮やかな青を強調していきます.

ベタのヒレは長すぎて,波打ったり垂れ下がるため,軟条を詳細に描きこむことでその動きを効果的に表すことができます.
胴体のうねりを鱗の寄り具合で表現するため,鱗の流れをメモしておきます.
ヒレや頭の先端にかけて紫色を帯びるグラデーションも忘れずに描いておきます.
線画
線画で表現するのは,ベタと流木,水草それぞれの質感の違いです.
この水槽に至るまでにたどった進化や流通の経路,その中で経たものが全く違うものたちの合流を表現します.

まずはベタの頭です.
不透明な鱗に覆われているため,魚特有の複雑な口の構造をあまり描きこみすぎないようにします.
とはいっても,存在をほのめかすように曲線の具合で表現していきます.
他の魚に比べて圧倒的な稼働域の広さを持つ鰓蓋についても同様です.

体のうねりに合わせて鱗のパターンを描くのは本当に難しいです.
何度も補助線を引いて取り組みます.
ベタの鱗は観察する限り全くの平らではなく,金魚の一種であるピンポンパールのような出っ張りがわずかながらあるようです.
今回はこうしたわずかな特徴も見逃さず描いていきます.

何本も整列している軟条についても同様です.
ひとまず根本だけ描きだして徐々に描き出す方針で戦略を立てます.
1本1本それぞれがどのような動きで美しい揺らめきを表現するのか一通り定めていきます.
尾びれの軟条に見られるうろこ状の模様は,尾びれの奥行きを表現するうえで効果的です.
丁寧に描いていきます.


続いて水草です.ここに描きこむのはインテリア水草として様々な店で売られているスクリューバリスネリアとレッドルドウィジアにします.
それぞれの水草は葉の形状から質感まで様々な相違があるため,線のゆがみにそれぞれ差をつけて描いていきます.

流木は水の流れに長時間さらされた影響で,波打つようで硬さを感じられる独特の曲線と,木が折れた際の鋭さが両立する特徴的な輪郭をしっかりとらえて描きます.
輪郭のみならず,もともと木が持っていた年輪と水の浸食がせめぎあってできた,複雑な表面の曲線を感じられるように線を引きます.
彩色

ウィンドウ左上部「選択範囲」より「色域選択」を選択.


これが選択された範囲を示す

描きこみ可能とするという意味.
ベタはまず下色を塗り,この色が塗られた範囲を選択し,この範囲の「レイヤーマスク」を作成します.
こうすることで,このレイヤーマスクの対象になっているレイヤーにおいては,範囲外に色が飛び出すことがありません.
つまり,複雑な輪郭があったとしても,これを無視して輪郭の際までキレイに色塗りを行うことが可能です.

軟条がはみ出してギザギザの輪郭を持っている腹びれや背びれも,このおかげで楽々色塗りができます.
その分グラデーションなどに注意して絵の完成度を高めていきます.
続いて鱗です.光を反射して明るく色が出る箇所,ごくわずかとはいえ日陰となりより濃く暗い色合いとなっている箇所を詳細に塗り分けることで,立体感を演出していきます.


続いての水草の彩色でも,上記「レイヤーマスク」を活用して2種類の色分けを簡便にしつつ,それぞれの微妙な色,質感の違いにフォーカスしていきます.

流木は光を受けた箇所の繊維がより強く光を反射することがあるため,彩色の段階でも線画で行ったような線の積み重ねを行います.

続いて,空間の演出としての彩色です.
水面とガラス面の際を表す背景の白と薄緑の境界や,ベタ手前に光としての薄い白を配置するなどして空気感(?)を演出します.
その後工程
こうして完成したデジタルイラストを,オンラインサービスを用いてキャンバスに印刷してもらい郵送してもらいます.
海外のアートフェアではキャンバス正面のイラスト本体のみならず,キャンバス側面まで鑑賞の対象となるとのことで,側面には生体の魅力的な生態について記入していきます.
完成!


無事完成し,2025/04/17~20の間無事展示されたようです.ご来場,ご鑑賞まことにありがとうございました.
